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ランジェリーと映画
スクリーンの闇にひときわ浮かぶランジェリー。それは物語を官能の世界へと誘い、ステージをまばゆく彩り、ときに人生を新たに描き直す小さな魔法。今回の〈LOVE LINGERIE MOVIE BEST 6〉では、映画とランジェリーが織りなす甘美で刺激的な関係を存分にお届けします。世代も国境も越えて私たちの背中を押すランジェリーは心までもがドレスアップ!さあ、とびきりシネマティックな6本で、あなたを夢中にさせる特別な旅に導かれてみませんか?
目次 -Contents
サイコロジカル官能ロマンス『Love in Paris/ナインハーフ2』
フランス生まれの女性監督 アン・ゴールソウが紡ぐ本作は、セーヌ河畔の灯りと石畳の影が交錯する夜のパリをキャンバスに、“心の揺らぎ”と“肌の温度”を重ね合わせたサイコロジカル官能ロマンス。ゴールソウはフランシス・F・コッポラ監督の『アウトサイダー』『ドラキュラ』で編集を担当し、レースのように繊細なカットワークで“映像の肌ざわり”を語る技巧を磨いてきた人物。その感覚を監督業に受け継いだ彼女は、布と光で感情を照射する独自の美学を本作で開花させている。

主人公ジョンを演じるのは、前作『ナインハーフ』(1986)で“世界一セクシーな男”の称号を得たミッキー・ローク。最愛のエリザベスを失い、喪失感に沈む彼がパリで出会うのは、エリザベスとも親交のあったファッションデザイナー レア(アンジー・エヴァーハート)。彼女はエリザベスの手記に綴られた〈官能の9週間〉に焦がれ、「私にも体験させて」とジョンに懇願する――その瞬間、甘くも危ういラブゲームの幕が上がる。
興行成績こそ目立たないものの、ランジェリーで世界を覗くと本作は一気に色彩を増す。ゴールソウは女性監督ならではのフェミニンなまなざしで、布が肌を撫でる“呼吸”まで画面に封じ込める。紺のボディランジェリーが浮かぶ冒頭のホテル・シークエンスでは、薄暗い群青の照明と深いネイビーが溶け合い、観る私たちの胸に孤独と渇きを静かに沁み渡らせる。

続くクラブシーンでは、ボンデージ仕立てのガーターストラップが揺れ、90年代後半のアシッドな熱気に80年代の甘美な残り香が絡みつく。路地裏のアンダーグラウンド・バーでは、カードの音とハイヒールの足音が交錯し、夜明け前のパリをさらに妖しく彩る。そしてファッションショー後のシークレット・サロン。ヴェルヴェットのカーテン越しに見えるのは、レースではなくシアーとサテンで構築されたランジェリー姿のモデルたち。その一瞬が、ジョンとレアの心理戦――“見る/見せる”、“支配/解放”――の温度を一段上げるスイッチとなる。
ゴールソウはカットを急ぎすぎず、青・黒・白・赤というカラーパレットで場面ごとのムードを呼吸させ、レンズを滑らせるように回しながら、ランジェリーのテクスチャーと人物の内面を一枚の絹糸で結びつける。紺のボディスーツ、黒いシアースリップ、バラの花びらを散らした赤サテンのスリップドレス――素材と色が変わるたび、観客の心拍数もリズムを変える仕掛けだ。

結果、本作は“読む”のではなく**“肌で感じる心理小説”へと姿を変える。『ナインハーフ』の刺激的な後味を覚えている人も、90年代モードの残り香に浸りたい人も、パリの闇とサテンの艶が編むこの“心のミラージュ”にぜひ身を委ねてほしい。ランジェリーを自分を解放するアートピース**と捉える30〜50代のあなたなら、きっとジョンとレアの“危うくも甘いゲーム”に心地よく溺れるはず。
サイコロジカル官能ロマンス『Love in Paris/ナインハーフ2』――その扉は、あなたのクローゼットの奥にも、そっと潜んで待っている。



Love in Paris/ナインハーフ2
「ナインハーフ」から12年・・・ミッキー・ロークが"限界の愛"に再び挑む ストーリー:最愛の女エリザベスを失い失意の日々を過ごしていたジョン。彼はパリを訪れ、そこで美しいデザイナーのレアと出会う。レアが彼に近づいた目的は何なのか?
Amazon.co.jp大人のセンシャルサスペンス『Femme Fatale/ファム・ファタール』
坂本龍一によるボレロ変奏曲「Bolerish」がカンヌの夜を震わせると、スクリーンはレッドカーペットの喧噪からほの暗いバックステージへと観客をいざなう。
カンヌの影で動くのが主人公ロール(レベッカ・ローミン)ら強盗集団。その狙いは美人モデルが纏った総額1,000万ドルのダイヤで編まれた蛇モチーフのゴールド・ビスチェ。カメラマンとして潜入したロールは大胆な誘惑を仕掛け、ビスチェを纏ったモデルを虜にし官能の中で宝石をすり替え、映画史に残る強奪劇で裏切りと騙し合いのセンシャルサスペンスの物語が始まる。

『ミッション:インポッシブル』の超大作アクション、『アンタッチャブル』のギャング叙事詩、『キャリー』のサイコホラー──ハリウッドを魅了してきたブライアン・デ・パルマ監督は、本作でアクションとサスペンス、そしてセンシュアルな世界観を同居させ、フィルム・ノワールの香りを現代にアップデートした。
アクション、強奪、騙し合い、サスペンス、成り済まし、誘惑、そして“夢”という大胆な入れ子構造。巨匠デ・パルマは古典ノワールへのオマージュを、グラマラスかつ官能的な映像美で刷新したのだ。
そして注目はランジェリーがロールの“武器”へと昇華し重要な役割を担っている点だ。白と黒、ロールの完璧なランジェリーシルエットを案内しよう。
ホテルの部屋までロールを追い詰めたニコラス(アントニオ・バンデラス)。ロールは真っ白な上下スーツ姿から勢いよくジャケットを脱ぎ捨てると、繊細な白レースのブラがあらわになる。ニコラスを意に介さず、タイトスカートのサイドジッパーをさっと下ろし、真珠のように光を散らすガーターストッキング姿に。柔らかな光がホテルの室内を包み込み、白いランジェリー姿になったロールはニコラスにゆっくり近づき誘惑する。物語の危険性を巧妙に覆い隠し、次なる展開への緊張を倍増させる。これが「白のランジェリー&ガーターストッキング」のシルエット。

物語が夜のバーへ移ると、ロールは全身黒のビッチテイスト溢れるボディストッキング・コーデで登場。バーの奥で男性を誘惑するストリップダンスを開始する。赤いライトの下、光沢を吸い込む黒レースのランジェリーとガーターストッキングが肌のコントラストを鋭く際立たせる。 背中を見せ妖艶に踊りながらショーツをずらし腰をくねらせるロール。ブラストラップを外しては掛け直す。その弄ぶような仕草に観客の視線は漆黒の罠へ引き込まれ、「黒のランジェリー&ガーターストッキング」で彼女が支配権を掌握していることを無言で思い知らされる。

白と黒、質感の異なる二つの装いを着替えるたび、スクリーンの空気が一変し、観客の感情も巻き戻される。ランジェリーは単なる衣装を超え、物語全体のリズムを指揮する“無言の旋律”として機能しているのだ。ロールの完璧なスタイリングは、映画史に刻まれるアイコニックな瞬間となるだろう。
アクションあり、サスペンスあり、そして謎解きの快感とランジェリーの妖艶さ。その全てが味わえる“大人のセンシャルサスペンス”。あなたも〈ファム・ファタールの夢〉を覗き込み、そこから目を離せなくなるに違いない。



Femme Fatale/ファム・ファタール
カンヌ映画祭で、1000万ドルの宝石を強奪したロールは、仲間を裏切って逃走。追われる身の彼女だったが、老夫婦にリリーという女性を間違えられて、危機一髪のところを助けられる。そして彼女はリリーになりすまし、追手から身を隠そうとするが…。
Amazon.co.jp逞しく生きるドキュフィクション『The Dancer Diaries/バーレスク・ガールズ 赤裸々な日々』
“Every Stripper Has Their Own Story(すべてのストリッパーには、それぞれの物語がある)”というコピーどおり、本作はオレゴン州ポートランド東南部の実在店〈Rose City Strip〉を舞台に、そこで働く踊り子たちの“仕事”を凝縮した94分のドキュフィクションだ。監督はアンディ・ノリス。伝説のバーレスク女王テンペスト・ストームが案内役を務め、観客を薄暗いバックステージへと誘う。

バーレスクと聞けば華やかなレビューを連想しがちだが、アメリカで一般に“burlesque”と言えばストリップクラブの踊り子を指す。本作に登場するのは実在のダンサーたちで、語られるエピソードの半分は実話だ。彼女たちの人生はステージライトと同じく、角度が変わるたびに色を変える。アルコール、パートナー、恋、仕事、ドラッグ、暴力、セックス、金銭問題、依存症・・・。“夜の副作用”に真正面から向き合う姿を包み隠さず提示し、現代社会の光が届きにくい闇と苦悩を映し出す。
作中にはリアルなダンスシーンが随所に散りばめられている。現役ストリッパーが披露するポール・ルーティンは、滑らかなスピンから床を使うフロアワークまで、本物ならではのキレ味。日常の重さを抱えたままライトの下で一瞬だけ空気を切り裂く身のこなしが、物語に説得力と高揚感を添える。またランジェリーも頻繁に登場するが、彼女たちにとってそれは紛れもなく仕事着。

物語の舞台となる老舗ストリップクラブ〈Rose City Strip〉は、まさに彼女たちの生命線。ここに登場するダンサーたちを、ほんの少しだけ紹介しよう。
サウスダコタからヒッチハイクで流れ着いたダニエル。帰る家を失った彼女にとってクラブは避難所だ。恋人との別れ、新しい出会い、そして思わぬ幸運が彼女を訪れる。
薬物依存から再起を図るサラ。更生プログラムの重圧に揺れながらもクラブで働き続けるが、親友を失った喪失感で自ら命を絶とうとする。しかし客席からの拍手を“生き直す力”へと変える。
自身の内に差別意識を抱えていたエバ。公園で黒人少女を助けた経験を機に価値観が揺さぶられ、偏見の殻を一枚ずつ脱ぎ捨て、人種差別主義と決別する。
ストリッパーとして裕福な生活を手に入れたカイル。複数のクラブで踊るが、不気味なストーカーにつきまとわれ恐怖に震える。それでも「物語を奪い返す」と決意し、ついには“追う側”へ立場を転じる勇気を得る。
バックステージでは、ステージライトの粒より切実な会話が飛び交う――「あと何シフト入れば家賃に届く?」「保険料、今月も払える?」。スポットライトで“キラキラ”に見える衣装も、網タイツのほつれも、すべては家賃・学費・医療費を捻出するためのアイテムにすぎない。グラスの中で揺れるバーボンの琥珀色は、長時間シフトの疲労と隣り合わせのアルコール依存を暗示し、ステージで輝く一瞬さえ実は生活をかろうじて支える細い柱――不安定な暮らしを背負う現実そのものだ。

テンペスト・ストームのナレーションは、バーレスク黄金期から続く「自己演出」の歴史を静かに紐解きながら、若いダンサーたちにこう告げる。
「スポットライトは当てられるものじゃない。『ここに立つ』と決め、自分で光の中へ踏み出した結果なのよ。」
それは観客席にいる私たちへのエールでもある。エンドロール後、ライトが消えても自分のステージは終わらない。今日もそれぞれの仕事場へ向かう女性たちに、本作はそっと寄り添う。銀行残高がゼロに近づく夜、恋人からの返信が途絶える朝、飲み干した缶ビールを持て余す夕暮れ、眠れない真夜中――そんな瞬間こそ、逞しく生きる本作の女性たちを思い出してほしい。



The Dancer Diaries/バーレスク・ガールズ 赤裸々な日々
これが本当のバーレスクダンサーたちの生き様!セクシーなコスチュームをまとい、スポットライトが当たるステージで妖艶に舞う。なぜ彼女たちはこの世界に入ったのか?様々なケースがあるなか、数名の女性の生き様をドラマ仕立てで描いていくヒューマン・ドラマ
Amazon.co.jp遅咲きでも堂々と香る『Die Herbstzeitlosen/マルタのやさしい刺繍』
人はいつだって自分の季節を選び、咲き誇れる。原題『Die Herbstzeitlosen』秋の誰もいない土からひょっこり顔を出すコルチカムの花(イヌサフラン)のように、「遅咲きでも堂々と香る」精神をタイトルに編み込み、私たちのクローゼットへ優しく風穴を開ける映画だ。

2006年夏、ロカルノ国際映画祭の舞台、ピアッツァ・グランデ。石畳の野外スクリーンを取り囲んだ三千人超の観客は、上映後すぐに総立ちで拍手を送り、その拍手は鳴りやまなかった。
当初テレビ映画として企画されていた本作は“劇場公開へ格上げ”変更され、その結果、スイス国内動員約59万人・年間興収第2位と快進撃を見せ、翌年にはアカデミー賞外国語映画部門のスイス代表にも選出。瑞々しい成功譚自体が、すでに「遅咲きの花」の寓話そのものだ。
舞台はスイスにあるエメンタール地方の小村。80歳の未亡人マルタは、仲間とともに自宅の雑貨店を刺繍ランジェリーのブティック〈プチ・パリス〉へ改装する“小さな冒険”を始める物語だ。
村の旗の修理を頼まれたマルタは友人4人と街に素材を買出しに行く。ふと寄った都会の下着店でマルタは流行のランジェリーを見ながらつぶやく「縫い目が粗いわ、だから機械はダメなの」「昔はみんな手で縫ったのよ」と。さらに、素材選びに訪れた店でレースやチュールを広げる彼女に店員が驚きを込めて告げる「本当に上等な素材ばかり選びますね」のひと言。元クチュリエの彼女にとって、ランジェリーは肌に最初に触れる“もうひとつの素肌”。手縫いの温度が失われた商品は、愛着以前に品格を欠くのだ。安価な大量生産が席巻するアパレル業界への真っ直ぐな思いだろう。

ランジェリーショップの開店準備をするマルタたち、とはいえ村は保守的。男たちは「年寄りがいやらしい」と眉をひそめ、女友だちでさえ最初はステッキでブラをつつくだけ。しかしマルタが古いトルソーにまとわせた自作のレースブラレットを目にした瞬間、“恥ずかしさ”は“ときめき”へ反転する。村の伝統刺繍モチーフをあしらった一着は、背筋を伸ばし、鏡をのぞく視線に凛とした光を宿すのだ。
ヨーロッパで刺繍は「糸の宝石」と呼ばれ、金銀糸や極細絹糸を用いる高価な手仕事は嫁入り道具や家紋代わりとして代々受け継がれてきた。たとえばシチリアでは、花嫁が持参する総手刺繍のリネンが家族の誇りそのものとされ、図案には土地ごとの物語が織り込まれる。マルタが選ぶ上質コットンやチュール、そしてエメンタール地方の固有の小花柄は、そうしたヨーロッパ刺繍文化の“遠い遺伝子”を下着へ写し取ったもの。だからこそ彼女の作品は一目で“ただの下着”と一線を画す輝きを放つ。

中盤、反対していたシニア世代の友人たちもコンピュータ講座に通い、ネットショップを立ち上げ、運搬する為に車の免許まで取得する。遅咲きの花は決して一本ではなく、互いに刺激し合いながら香りを増幅させるブーケへ。そんなシスターフッド(女性同士の絆)がスクリーンを瑞々しく彩る。
やがて村を巻き込む騒動を経て、本作が届けるのは「生きる喜びに年齢も常識も関係ない」というエール。ランジェリーにまつわる偏見をほどき、上質なレースを肌にのせる喜びを思い出させてくれる。センシュアルか否かは他人が決めることではない。自分の体を慈しむ選択は、自分自身のためにあるのだ。
公開後、現地では“マルタ巡礼”と呼ばれる小旅行プランが密かなブームに。店舗跡を模したギャラリーで刺繍体験を楽しむ女性旅行者が増え、「いいものを少しだけ、大切に」というライフスタイルが静かに根を張り始めている。スクリーンの外側にまで、作品は“上質回帰”の糸をしっかりと引き寄せたのだ。
秋の夜長、柔らかなサテンローブの下に“糸の宝石”をそっと忍ばせ、『マルタのやさしい刺繍』を再生してみてほしい。コルチカムの花が静かに咲き誇るように、あなたの中の遅咲きの芽もきっと目を覚ます。
自分で季節を選び、咲くタイミングを決められるのは、ほかの誰でもない“あなた”なのだから。



Die Herbstzeitlosen/マルタのやさしい刺繍
“夢みるパワーとは、あきらめないココロ!”80歳のおばあちゃん、マルタの夢は、自分でデザインして刺繍をしたランジェリーのお店をオープンさせることだった!遅咲きの乙女たちが繰り広げる、ハートフルでチャーミングな物語に、みんな勇気を貰えるはず。
Amazon.co.jp欲望ファッション・ショー『THE BRASS TEAPOT/マジック・マネー』
痛みをお金に換える。そんな悪魔的なティーポットを拾ってしまった新婚カップル、アリスとジョン。 その運命を描く『THE BRASS TEAPOT』(邦題『マジック・マネー』)は、ブラック・コメディの皮をかぶった、欲望のファッション・ショーだ。
太古から人々が追い求めた“禁断のティーポット”。裏切り者ユダの銀貨を溶かして鍛えられたというこの器は、チンギス・ハンの腰に揺れ、ヴラド・ツェペシュの血宴を彩り、スペイン無敵艦隊の財宝争奪戦、そしてナチスが隠したアルプスの要塞へと転々としながら、幾度となく歴史の裏側で“欲望”に火をつけてきた。そんなティーポットが、ある日現代の片田舎にふと現れる。

就職難とローンに押しつぶされそうな若い新婚夫婦が、アンティーク店で偶然にそのティーポットを手にしてしまうのだ。アリスとジョンはやがて、このティーポットが“痛み”を対価に現金を生み出す魔法の器だと知る。青あざ程度の傷で小銭が出てくるとわかれば、最初はゲーム感覚で自虐する。だが、より大きな金額を得るには、より深い痛みが必要になるのだ。
ふたりは「1億ドルたまったらやめよう」と約束し、次第に自ら痛みを“稼ぐ手段”として選んでいく。 歯科治療は麻酔なし、夫婦でタトゥーを入れ、ついにはSMプレーにも足を踏み入れお互いに痛みを得る事と交換で財布をふくらましていく。それは、愛と倫理がじわじわと摩耗していく過程でもある。
そしてこの映画を語るうえで欠かせないのが、ランジェリーの存在だ。若い新婚カップルだけあって、作品全体にランジェリーが溢れている。実際、海外のレビューでは「主演ふたりが下着姿でいる時間が驚くほど長い」と皮肉られるほど。
なかでも新妻アリスを演じるジュノー・テンプルは、体当たりの演技でランジェリーを着こなし、物語を軽やかにも痛々しく支える。最初はフローラルなブラとヴィンテージ風のスタイルだった彼女が、回を重ねるごとに煌びやかなスリップドレスへと装いを変えていく様子は、欲望のグラフを身体で描くようでもある。
特に見て欲しいのがSMごっこに興じるアリスのスタイルだ。黒いコルセット風ベビードールにガターベルト、バックシームのガターストッキングに「Tease me(私をじらして)」の文字、寝室で四つん這いになり挑発的な態度で夫のジョンを誘う姿はセクシーでもありながらどこかコミカル。作品の見どころの一つだ。

様々な痛みを試しながら、やがて物語は終盤へ。神聖考古学協会の教授であるリン教授が登場し、「その器は所有者を破滅させてきた」と警告を発っし手放すことを伝えれば、ユダヤ教の信者がやってきて「裏切り者ユダの30枚の銀貨を溶かして作られたティーポットだ。それを私たちに渡しなさい。」とティーポットが“神に背く器”であることを強調し奪いに来る。また友人のアーニーも富豪になった2人を怪しく思い、ティーポットの秘密を知り奪いに来る。
ふたりはすでに、金と引き換えに自分たちを削り続けていた。だが、このティーポットをめぐる“ゲーム”に終わりはあるのか? 最後は誰がこのポットを奪うのか?アリスとジョンはすべてを投げ捨て、真に大切なものを取り戻せるのか?

本作は2019年に舞台ミュージカル化企画が動き出し、2024年のNAMTフェスでの披露を経て、2025年春にはLAで開発公演が実現。映像の〈痛み×お金〉の美学が、次はステージでどうスパークするかも注目ポイントだ。
“とびきり痛くて、美しくて、ちょっぴり切ない”ブラック・コメディ。 私たちも時々、自分の“欲しい”と“我慢”の間で揺れることがある。そのとき、あなたの中で小さなティーポットが“チリン”と鳴るかもしれない。〈痛み〉を〈お金〉に換え何を得るか考えてみませんか? その音は、私たちが本当に欲しいものに気づくための、小さな合図なのかもしれません。



THE BRASS TEAPOT/マジック・マネー
自分を痛めつけるとお金が出てくる魔法のティーポットを手に入れた、ジョンとアリスの夫婦。お金持ちになるため、さらにポットを詳しく調べ、色々と自らを痛めつけることを試していく。やがて、ティーポットを狙う色々な人達が現れて…。
Amazon.co.jp秘密の官能美を紡ぐ『Sleeping Beauty/禁断の悦び』
秘密の屋敷で行われる秘密のシルバーサービス。 ジュリア・リー監督・脚本による『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』は、“官能美を紡ぐシネマ”として2011年にオーストラリアで誕生した映像詩。飾り立てない丁寧な語り口で濃密な時間を紡ぎます。

2011年には第64回カンヌ国際映画祭公式コンペティション部門に選出されるなど、官能だけでなく海外ではアートシネマとしての性質が高く評価される映画。
注目すべき本作の原点は、川端康成が1960年から61年に雑誌『新潮』誌上で連載した中編小説『眠れる美女』。全17回の連載を経て五章構成で単行本化された原作は、老紳士たちが“眠らされた美女”と過ごす秘密クラブを舞台に、エロティシズムとデカダンスを描き出す。監督のジュリア・リーはこの耽美の世界を女性視点で再構築し、現代に響くテーマへと紡ぎ直しました。

原作では老紳士の幻想と死生観が交錯するが映画では若手大学生ルーシー(エミリー・ブラウニング)に主眼を移し、貧困とお金の狭間で揺れる心情を鮮やかに映し出します。透明感あふれる演技と美しい肌に寄り添うのは、光と影を操る撮影監督ジェフリー・シンプソン、静寂を和らげるベン・フロストの音楽が紡ぐシーンの数々。101分という短編詩のような上映時間は、印象派の絵画のごとく胸に刻まれます。
低予算ながらも、プロデューサーにジェシカ・ブレントノール、製作総指揮にティム・ホワイトらを迎えた本作は、ミニマルな美学とアンティーク調の調度品が共鳴し、ルーシーの純粋さを引き立てる空間を創出。2011年のオーストラリア版アカデミー賞(AACTA)では、撮影とプロダクションデザイン、衣装デザイン賞の各部門にノミネートされるなど、その美術的完成度の高さを証明しています。
その衣装を手がけたのは、コスチュームデザイナーのシェリーン・ベリンジャー(Shareen Berringer)。作中のランジェリーやローブは物語世界に最適化されたカスタムメイドの衣装としてデザインされ、その美意識は作中で極上の映像に宿る官能を一層際立たせます。
ルーシーのガーターストッキングにハーフカップのブラ、シルバーサービスではトップレスのウェイトレスたちがモード感が溢れるランジェリーを着こなし、様々な場面で美しくも官能的なランジェリーが登場します。

物語の主人公は、学費を稼ぐため様々な仕事を掛け持ちする美しい貧困の女子大生のルーシー。家庭環境にも恵まれない彼女は生きるため体を売る事さえ躊躇わない生活をする中、ランジェリー姿で給仕する秘密のアルバイトを始めます。やがてその屋敷の主からから眠るだけの高額アルバイトに誘われ『眠れる美女』となり秘密の屋敷で静かな寝息とともに秘密の時間を過ごします。

『スリーピング ビューティー/禁断の悦び』は、川端康成『眠れる美女』の映像化という先駆的試みとして、日本文学が海外で再評価されるムーブメントの火付け役ともなりました。2022年には英国における翻訳小説の売上の25%※1を日本作品が占めるほどのブームに発展した背景には、本作のような挑戦的な映像表現があったと言っても過言ではありません。
大人だからこそ味わえる、「官能美を紡ぐシネマ」の深い余韻を胸に、静かに自分自身と向き合う特別な時間をぜひお楽しみください。
※1 Nielsen BookScanのデータによると、2022年に英国で販売された翻訳フィクション全体の売上の25%を日本文学が占める。



スリーピング ビューティー/禁断の悦び
眠るだけの秘密のアルバイトに身を投じた女子大生ルーシーの物語。無防備な眠りの中で揺らぐ欲望と孤独が、観る者を静かな衝撃へと誘う禁断の官能ドラマ。第64回カンヌ映画祭コンペティション部門 正式出品作品。
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